映画やテレビドラマの製作業から、革新的な移動補助器具のビジネスに転身することは論理的なキャリアパスとは思えないかもしれない。しかし、バイエーカー社のCEOであるアンダース・ベルグリーンが歩んできた道はそうだった。
FedEx Small Business 大賞 2021のグランプリ受賞者に選ばれた、コペンハーゲンに本拠を置くこの企業は、2015年にアンダース・ベルグリーンとCOOのスザンナ・ノルマルクの2人によって設立された。しかし、現在同社が製造しているカーボンファイバー製ロレータ歩行器のアイデアを思いついたのは、それよりもずっと後のことだった。
ある展示会に並ぶ数多の歩行器を目にしたことが全ての始まり。そのどれもが同じに見える歩行器を前にして、ベルグリーンに一つの思いがよぎった。
「パーキンソン病で亡くなった父。祖母は97歳で亡くなるまで老いを感じさせることはなかった。そんな彼らはこれらの歩行器を選ぶだろうか?なぜクールな歩行器が存在しないのだろう?歩行器は何者かという世間の認識を逆転させるために、我々ができることを始めてみよう!」
彼はビジネスチャンスにも目をつけた。世界の移動補助具の市場規模は、2020年には推定78億ドルで、2021年には99億ドルに拡大すると言われている。「この市場はとてつもない勢いで成長し、売上高はうなぎ登りです。」しかし、ベルグリーンは、旺盛な需要がこの分野の既存ビジネスを怠慢にしているとも主張する。
とはいえ、現状を打破する製品で新しいビジネスを立ち上げるには、それなりの課題も伴うことも事実。重大なハードルは、これまでと異なるやり方や製品の必要性を人々に納得させることであった。銀行から資金を確保するのは困難で、小売業者に製品を在庫してもらうよう交渉するのも簡単ではない。「彼らは私たちを信じてくれませんでした。小売業者からは多くの抵抗を受けました。」と彼は言う。
そんな困難にもかかわらず、ベルグリーン とノルマルクはバイエーカーを世界的ビジネスに育て上げた。
ここでは、既存業界を破壊するプレーヤーとなるために何が必要かについて、彼らが学んだ教訓の一部を紹介しよう。
ベルグリーンとノルマルクは、歩行器市場に注目し始めると、そこに何が不足しているのかをすぐに認識した。
「この業界にデザインが欠けているのは明らかでした。」ベルグリーンは説明する。 「それは、(既存の企業が)ユーザーを希望や夢を持つ『人』ではなく、『患者』としてしか見ていないためであることがすぐにわかりました。」
顧客にとって何が最も重要かを知るには、まず顧客に直接尋ねてみること。ベルグリーンと彼のチームは街頭に立ち、移動補助具に何を求めるのか、所有する歩行器について何が好きで何が嫌いなのか、ユーザーの声を徹底的に拾い集め、製品の青写真を描き始める。
「その時、彼らは心を開いてくれました。議論が深まり、何が必要なのかを思い描くことができるようになりました。」
結果としてベルグリーンとノルマルクは、旅行やレジャーなどアクティブな生活を望むユーザーに向けた新時代の歩行器マーケットが存在することに気付くこととなった。
「私たちは歩行器の方程式から『年齢』を除外することにしました。」
バイエーカーのデザインチームは新製品を設計するにあたり、既存製品の設計を見直し改善する手法はあえて避け、デザインをゼロから構築するアプローチを採用することとした。
デザインに「アクティブさ」を宿すための出発点として、サメ、ワシ、スポーツカー、戦闘機・・・あらゆる「アクティブ」な外観の写真で壁を埋め尽くし、エンジニアと壁の前に座って、それらがなぜ「アクティブ」なのかを一つ一つ問答していく・・・
しばらくすると、写真で覆われた目の前の壁に「有機的な何か」の形が浮かび上がった。
「私たちはこの有機的な形をしたものを作らなければならない!」
こうして、バイエーカー カーボン・ロレータ歩行器のファーストデザインが産声を上げることとなる。
「製品を再発明したいならば、取引上の意見に耳を傾けてはいけません。」とベルグリーンはアドバイスする。「そこにはたくさんの偏見が存在することを覚えておかなければなりません。」
バイエーカーの初期の頃、消費者は彼が展示している製品に興味がない、そして、その価格帯で製品を購入する心構えができていない、と小売業者から繰り返し言われ、交渉を断られ続けていた。しかし、彼らのチームは消費者自身から直接「本物の意見」を聞き、知っていたのだ。
「イノベーションを起こしたい場合、商売取引と並行して行うことは困難、ほぼ不可能です。取引については後で対処できるはずです。」と彼は語る。
移動補助具を必要とする顧客の大部分は高齢者であるが、バイエーカーチームは自社の製品が若年層やソーシャルメディアに精通した層にも人気が高まっていることに気づいた。
しかし元来より、オンラインにおいて強力な存在感を高めることは、常にバイエーカーの重要な戦略の一部であったのだ。
「歩行器の購入はユーザーにとって非常に大きな決断であり、非常にプライベートなものです。だから、彼らはインターネットで調べ物をし始めるだろう、と私たちは理論付けていました。」
ベルグリーンによれば、障害者支援活動家や、バイエーカー歩行器を使って生活している写真を投稿しているブロガーは、同社の最も重要なアンバサダーの一人であり、彼らのこのブランドに対する熱意が、製品の口コミを広めるのに役立っているという。
このようにしてバイエーカーのネームバリューを確立したことが現実の需要にも反映され、顧客はオンラインで見た製品を実際に店舗に問い合わせるようになっていったとベルグリーン氏は言う。「そして、それから、広がり始めたのです。」
革新的な製品を発売するときは、「とにかく粘り強い行動」を。
バイエーカーは、比較的早い段階でコアな消費者を獲得することにより、小売業者に自社製品を在庫するよう説得することができたのだ。
出典: FedEx – byACRE: Three lessons from disrupting an industry – 2022 年 4 月